いわさき司法書士事務所の津田です。
前回に引き続き、長崎市青山町の私道封鎖問題について取り上げます。
では、他人が所有する土地を通行する権利として、どのようなものがあるか見てみましょう。
1)使用貸借契約
使用貸借とは、無償で物を貸し借りすることを言います。
おそらく今回の事案では、分譲業者のA社が住民に対して、無償で道路の使用を認め、引き渡しされており、使用貸借契約が成立していたものと思われます。
ただし、契約の一般原則通り、契約の当事者以外の第三者には道路使用権を主張することはできません。
つまり、新たに所有者となったB社は道路使用権があることを認める義務はないことになります。
(ただし、「前所有者が無償の通行を認めていたことを知って所有権を取得したこと」は、前回述べた「権利の濫用の評価根拠事実」となります。)
また、次の賃貸借と異なり、登記をすることはできません。
なお、使用貸借契約は原則として、借主が死亡すると終了します。A社と住民の間で、「当初の所有者が死亡しても使用貸借契約は終了しない」との黙示の特約があったものと考えるべきでしょう。
2)賃貸借
賃料を支払って物を借りることをいいます。
不動産の場合には、借主の権利のことを特に賃借権と呼びます。
賃借権は当事者間で特別に合意すれば登記することができ、登記すれば契約当事者以外の第三者にも、賃借権を主張することができます。
今回のケースは、住民がA社に通行料を支払っていなかったので、賃貸借契約が成立したと見ることはできません。
最初に一括して支払っていたと主張することも考えられますが、これは登記しなければ新所有者に対抗できないので、無意味な主張となります。
一方で、B社からの通行料の請求は、新たな賃貸借契約の申込みをしているものとみることができます。
3)地上権
工作物や竹木を所有するために土地を使う権利です。
契約関係である上の2つと異なり、物権といって物に対する排他的な権利です。
有償・無償を問いません。
所有者との間で、地上権設定契約を締結することで発生します。
道路も工作物として扱われ、「目的 道路所有」として登記することができます。
地上権が発生すれば、所有者には登記に応じる義務があります。
4)通行地役権
地役権とは、ある土地(要役地)の便益のために、他の土地(承役地)を使用したり、使用を制限する権利です。
特に通行に関するものは、通行地役権と呼ばれています。
要役地所有者と承役地所有者の地役権設定契約により発生します。
物権ですが排他性はなく、分譲地の共用道路部分の利用権として適している権利です。
上の2つは権利者が登記され、権利者が交代すると、その都度権利移転の登記を申請する必要があります。その点、地役権は要役地に付随するものとして、要役地の所有者が変われば、当然に地役権者も変わるので、登記漏れの心配もありません。
前回、住民の通行する権利が時効によって成立したのかという点も検討しましたが、通行地役権を時効取得するには、時効取得する者が自ら通路を開設することが要件とされているので、今回のケースでは、地役権の時効取得はあり得ません。
5)囲繞地通行権
「いにょうちつうこうけん」と読みます。
他の土地を通らなければ公道に出られない土地(袋地)の所有者がそれを囲む土地(囲繞地)を通行する権利をいいます。
袋地になっていれば当然に認められる権利で、合意の必要はありません。
また、袋地所有者であれば登記されていなくても、囲繞地所有者に対して通行権を主張できます。
合意もなく発生する権利なので、袋地所有者にとって必要で、かつ囲繞地所有者にとって最も損害の少ない方法で通行しなければなりません。
"原則として"、通行権を行使する場合は囲繞地所有者に対して償金を払う必要があります。
今回のケースでは、"無償の"囲繞地通行権が成立している可能性があると考えています。
開発分譲地の場合、一旦合筆した上で区画ごとに分割してから販売するので、分割の結果として袋地が生じることになります。
このように、元々一つの土地だったものを分筆した結果、公道に通じない袋地が生じた場合、袋地所有者はもともと同じ筆だった土地に対してしか囲繞地通行権を行使できません。
そして、この場合には囲繞地所有者に償金を支払う必要もありません。
また、この無償の囲繞地通行権は、たとえ当事者が変わった場合にも存続します。
ただ、B社が通行料を請求しているのは自動車・二輪車に対するもので、徒歩での通行までは制限していません。
その点、自動車の通行を前提とした囲繞地通行権が認められるかどうかは、必要性や周辺の土地の状況、囲繞地所有者が被る不利益を総合的に考慮して判断されます。
次回は、今回の事案はどのような結論になるのか予想したいと思います。
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