いわさき司法書士事務所の津田です。

ある業種のために建てられた建物をそのまま利用してその営業を引き継ぎたいというニーズがあります。
営業のために建てられた建物は、その業種特有の構造となっていることが多く、他に利用することが難しいため、結局取り壊さざるを得なくなるためです。
しかし、それが許認可業種の場合には注意が必要です。
営業許可は、営業者に対して出されるものであって建物や場所に与えられるものではないため、その建物を買い取っても自動的に営業許可がついてくるわけではありません。

ただし、方法がないわけではありません。
この場合に検討すべきなのが、営業許可を持っている会社そのものを売買する方法を使えないかです。
具体的には、既存の会社を会社分割し、新たな会社を設立し、その株式を売買する方法です。

ここでは、パチンコホールやラブホテルのような営業許可と不動産が一体化している風俗営業を例に見てみましょう。

【風俗営業の適正化に関する法律 第7条の3 第1項(法人の分割)】
風俗営業者たる法人が分割により風俗営業を承継させる場合において、あらかじめ当該分割について国家公安委員会規則で定めるところにより公安委員会の承認を受けたときは、分割により当該風俗営業を承継した法人は、当該風俗営業についての風俗営業者の地位を承継する。

このように、もともと「営業許可を持っている会社が会社分割をして、許認可を承継させる方法」が存在します。
新たに営業許可を取り直すとなると、審査の間、営業を中断する必要があり、用途地域の指定や保護対象施設ができていたなど、事後的に営業許可の基準を満たなさなくなっていて、営業許可を取得できないというリスクもあり、これらを回避するために、この方法は極めて有効です。

"会社分割"とは、M&Aの一種で、「会社の事業を分割し、その事業に関する権利義務を分割計画書に従って分割により設立した会社に承継させること」をいい、法律上は相続や合併のような包括承継の一種です。
なお、会社分割する既存の会社を"分割会社"、会社分割により新たに設立される会社を"設立会社"と呼びます。

この場合の売主側の基本的な流れは次のようになります。
  1. 会社分割計画書の作成
  2. 分割計画書等の書面の備え置き
  3. 分割計画書の株主総会での承認
  4. 労働契約承継法に基づく設立会社に転籍する労働者との協議
  5. 債権者保護手続き
  6. 主務官庁による会社分割の承認
  7. 設立会社の株式の売買(代金の支払い・担保の抹消など)
  8. 会社分割の登記(新設分割による設立登記、設立会社に移る不動産の移転登記)
  9. 会社分割効力発生後の書面の備え置き
なお、風俗営業の許可を承継する場合には、売主側で「8 会社分割の登記」前に「6 都道府県公安委員会の承認」を受けておく必要があります。

買主側は、売主側で会社分割の手続きが確実に履践されることの確認にあわせて、次のことを意識しておく必要があります。
  • 資金調達
  • 株式売買契約の効力発生日の調整
  • 売買代金を用いての既存担保権の抹消
不動産売買のケースとよく似ていますね。
※「資金調達」については金融機関の稟議の承認に時間がかかるので、余裕を持ったスケジュールを組んでおく必要があります。

ただし、対象物が営業中の会社であるため、状況が絶えず変化します。
そのため、契約(覚書、中間合意書など)を数回にわけて締結し、最終的に一体のものとするよう最初の契約で定めておきます。
そして、すべての条件が整ったことを条件に、会社分割・株式売買契約の効力を生じさせるように売買スキームを設計していきます。

なお、会社分割をしても設立会社は分割会社の債務を引き継がないのが原則です。
(詐害的会社分割に該当しないよう、専門家によるスキームの設計が不可欠です)

また、「5 債権者保護手続き」は不要となるケースが多いと思われます。
※会社分割計画に、「設立会社に分割会社の債務を移す」条項があったり、「設立会社が発行した設立時株式を分割会社の株主に交付する(人的分割)」定めをしないことが条件です。
これは、会社分割で承継される事業の対価として、分割会社は設立会社より株式の交付を受けており、分割会社の財産に毀損がないと考えるからです。

内容が複雑なものなので、なかなかお目にかかる機会がありませんが、弊事務所でできる限りお力になれたらと考えています。
お気軽にご相談いただければと思います。

本日はこれで失礼します。