いわさき司法書士事務所の津田です。

不動産売買で売主が買い戻す権利を留保して取引されるケースがあります。

例えば、比較的安価で購入できる住宅供給公社の物件の売買の際、転売を防ぐために、仮に転売された場合に住宅供給公社が買い戻せるようにするなどの目的で行われます。
以前は、サブリース契約の一部として金融の代替的機能を果たしたりしていましたが、「目的不動産の占有の移転を伴わない買戻し特約付売買契約は譲渡担保である」(平成18年2月7日最高裁判決)との最高裁判例を受けて、その実益は乏しいものとなっています。

売主が買い戻す権利を留保する方法としては、以下の方法があります。
  1. 買戻特約
  2. 再売買の予約契約
1.買戻特約」を締結した売主の地位は、「買戻権」とも呼ばれ、それ自体が財産権的性質を有しています。
そのため、買戻権自体を取引の対象にしたり、質権を設定することができます。
買戻権は、民法第579条以下で定められています。

【民法第579条(買戻しの特約)】
不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。(以下省略)

買戻特約がなされていると、売主(または売主から買戻権を承継した者)は、売買代金と契約費用を買主に提供することで、売買契約を解除して、売却した不動産の所有権を取り戻すことができます。

買戻特約は、売買による所有権移転登記と"同時に"、次のような申請情報を用いて申請します。

[申請情報例]
登記の目的 買戻特約
原因    年月日特約
売買代金  金2000万円
契約費用  金300万円
期間    年月日から10年
権利者   A(売買の売主)
義務者   B(売買の買主)
添付情報  登記原因証明情報、代理権限証明情報
登録免許税 不動産1個あたり1000円
※ 上の申請情報のうち、権利者までが登記簿に表示されます。
※ 原因日付は、原則として
買戻特約付き売買契約を締結した日です。
※ 複数の不動産が買戻特約の対象となる場合、売買代金・契約費用は不動産ごとに定める必要があります(敷地権付区分建物を除く)。
※同時申請(連件同順位)により、売買による所有権移転登記と買戻特約の登記は、同じ受付番号が付され、所有権移転登記に付記して買戻特約の登記がされます。

もし、売主が買戻権を行使した場合、
登記の目的 所有権移転
原因    年月日買戻
という登記を行います。 
原因日付は、売主が買戻権を行使した日です。
※買戻権の行使により、買戻特約の登記は登記官の職権で抹消されます。

仮に、当初売買の所有権移転登記がされたのちに、抵当権が設定されていた場合には、この抵当権は実体上、買戻権者に対抗できず、抵当権の抹消に応じる義務があります(応じない場合は抹消登記請求訴訟の確定判決をもって判決登記を行います)。
この場合の登記は、
登記の目的 ◯番抵当権抹消
原因    年月日買戻権行使による所有権移転
権利者   A(買戻権を行使した者)
義務者   C(抵当権者)
となり、原因日付は売主が買戻権を行使した日です。

ただし、買戻特約には次のようなデメリットがあります。
  • "不動産""売買"に限られること
  • 必ず売買契約と同時にする必要があること
  • 買い戻す際に売主が支払う金額が「売買代金+契約費用」と決められていること
  • 行使期間の制限があること(契約成立から最長10年間)
  • 売買による所有権移転登記と買戻特約の登記は同時に申請すること
※来年4月1日施行の改正民法では、買戻しの際に返還する金額を、当事者間で自由に決めることができるようになります。

これは、買戻権が明治時代に民法ができる以前から存在していた慣習で、暴利を防ぐために立法担当者が成立要件を加重したことによります。

そこで、個々の実情に応じて柔軟な取り決めを行えるよう、取引実務において「2.再売買の予約」という手法が潜脱的に用いられるようになりました。
※ 脱法行為ではないかと裁判になったことがありますが、最高裁判決により有効性が確認されています。

「再売買の予約」は、民法556条に根拠があります。

【民法第556条(売買の一方の予約)第1項】
売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。

この売買の予約がなされた場合、権利を有する者が相手方に対して予約完結の意思表示により、自動的に売買契約が成立します。
この、意思表示により売買契約を成立させる権利のことを「予約完結権」と呼びます。
予約完結権も買戻権と同様に財産的価値があり、それ自体が取引の対象となります。

売買の予約は不動産に限らず多くの取引類型で見られるもので、例えば、金融派生商品のオプション取引とは、まさに売買予約完結権の取引のことです。
また、会社法には新株予約権というものがありますが、これも一種の売買予約完結権です(出資は売買ではないので厳密にいうと違います)。

そして、売主が売却した物を買い戻すものを、特に「再売買の予約」と呼びます。

買戻特約の厳しい制約を受けずより柔軟な定めが可能なため、利息を組み入れるなど再売買価格を自由に取り決めることができるとともに、買戻権とは異なり、売買金額が登記事項とされていないため、営業上の秘密が守られるというメリットもあります。

また、予約完結権も買戻権と同様に登記することにより、第三者に優先権を主張することができます。
方法は、2号仮登記によります。

[申請情報例]
登記の目的 所有権移転請求権仮登記
原因    年月日売買予約
権利者   A(当初売買の売主)
義務者   B(当初売買の買主)
添付情報  登記原因証明情報、印鑑証明書、代理権限証明情報
登録免許税 所有権移転登記の登録免許税の2分の1
※ 原因日付は、原則として売買予約契約を締結した日。ただし、売買予約契約の時点で買主に所有権が移転していない場合には、売買により買主に所有権が移転した日。

売主が予約完結権を行使した場合、この仮登記を本登記にします。
登記の目的 所有権移転(◯番仮登記の本登記)
原因    年月日売買
登録免許税 所有権移転登記の登録免許税の2分の1
※原因日付は予約完結権行使の日

なお、再売買予約の仮登記の本登記を行う際、仮登記に遅れる抵当権等が存在する場合には、当該抵当権等の名義人の承諾書が必須となります。
実体上、本登記後は仮登記に遅れる権利は売主に対抗できませんが、それらの権利者の承諾が得られなければ登記はできません。
この場合、承諾請求訴訟を提起し、その確定の勝訴判決をもって承諾書に代えて申請することになります。

最後に買戻特約と再売買の予約の比較を上げておきます。
- 買戻特約 再売買の予約
目的物 不動産(579条) 無制限
成立時期 売買契約と同時(579条) 無制限
対抗要件 買戻特約の付記登記 所有権移転請求権仮登記
存続期間 10年以下。ただし、期間の定めなきときは5年(580条) 無制限(ただし、10年の時効にかかる)
行使方法 代金・契約費用を提供(579条) 意思表示
譲渡性 あり(買戻権) あり(予約完結権)
譲渡の対抗要件 付記登記あるとき→移転登記
登記ないとき→通知又は承諾
仮登記あるとき→付記登記
登記ないとき→通知又は承諾
譲渡があった場合の意思表示の相手方 譲受人 譲渡人
※ 来年4月1日施行の改正民法では、5年となります。