いわさき司法書士事務所の津田です。

今回は、2020年4月施行の改正民法で新たに加わった規定である”定型約款”について取り上げます。
民法改正の草案を決めた法制審議会の民法部会でも、学者委員と実務家委員の対立が激しかった部分で、実務に与える影響が非常に大きいと考えられます。

従来から約款による契約というのは広く行われています。
例えば、保険約款、銀行取引約款、旅客運送約款、旅行約款、電気供給約款、ガス供給約款など・・・
インターネットの利用規約もこれに該当します。

旅客運送約款とは、電車やバスなどの公共交通機関を利用に当たってのルールが定められているものです。
乗客は契約を締結しているという認識はありませんが、乗客は鉄道会社と運送契約を締結しています。
旅客運送約款に効力を認めなければ、乗客とそれぞれ「この内容で契約します」と合意することが必要となりますが、そんなことをやっていたら電車やバスに乗り遅れてしまいます。

※ 例えば、JR西日本の旅客運送約款は、JR西日本のホームページで公開されています。

そこで、顧客を大量に相手にする業種の場合、約款という形で定形の契約条項を定め、約款に従うなら契約を締結し(利用を認め)、従う意思がなければ一律に契約を締結しないという取扱いをします。

本来、契約は当事者がその内容を認識し、その内容で契約を成立させるという意思表示が合致して初めて成立します。
しかし、約款による契約の場合、顧客は約款の内容を認識していることはほぼありません。

今回の民法改正では、約款を顧客が認識していなくても、一定の要件を満たすことで、"契約が成立"(みなし合意)し、事業者側の"一方的な変更が既存の契約に適用"されることが認められると定められました。

改正民法は、まず"定型約款"の定義を定めています。
  • ある特定の者は不特定多数の者を相手として行う取引(不特定要件)
  • その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(合理性要件)
この2つの要件を満たすものを"定型取引"といい、そのうち
  • 定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体
をいいます。

一般に約款による取引のすべてが”定型取引”となるわけではなく、”定型取引”に該当するかは、個別具体的な事情により判断するしかありませんが、上に挙げた運送契約はこれに該当するでしょう。

なお、相手方の個性に着目したもの(ex.労働契約)や交渉により記載されている内容が変更される可能性のある単なる雛形(ex.不動産売買契約書、建築請負契約書)は対象外となります。

判断がむずかしいのが、審査のある保険契約やローン契約ですが、一定の要件を満たせば一律に約款の内容が適用されるものであるため、これらも”定型取引”に該当するものと考えた方がよいでしょう。

定型約款を契約の内容とするための要件は、
  • 定型約款を契約の内容とする旨を当事者間で合意するか、事業者が顧客に対しその旨を表示すること
  • 信義則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項ではないこと
のすべてを満たすことが必要です。

特に不当条項の規定は、もともと消費者契約法にある規定で、契約の交渉力の格差により不当な契約条件が定められる可能性があるのは消費者取引に限られないことをふまえ、一般法である民法にも導入されたものです。
なお、改正民法の適用がある場合であっても、消費者契約に該当すれば、当然消費者契約法の規定が適用されます。

また、定型約款を準備した側は、相手方の請求があれば、遅滞なく、相当な方法で定型約款の内容を示す必要があり、これを怠ると定型約款を契約の内容とするみなし合意”は無効となります。

次に、約款を準備した側が一方的に約款の内容を変更し、既存の契約に適用させる要件としては、
  • 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
  • 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
のいずれかに該当する場合で、
  • 信義則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項ではないこと
  • ”効力発生日”・”定型約款を変更する旨”・”変更後の定型約款の内容”を効力発生日までに適切な方法で周知すること
を満たすことが必要です。

”定型約款の規定”は、改正民法の施行日である来年4月1日より前に契約したものであっても適用されます。
定型約款の有効要件が明確になったことで、企業としてはすでに存在する約款や業務フローの見直しなどが必要となってきます。
来年4月1日までに適切な方法で周知して、既存の約款の有効性に疑義が生じるような事態は避けるべきでしょう。

本日はこれで失礼します。