不動産登記制度においては、不動産の権利関係を公示するため、何人でもその情報を得ることができるとされています。具体的には、たとえば登記事項全部証明書(いわゆる登記簿)には、その不動産の所有者の住所と氏名が記載されるというルールですが、この登記事項全部証明書は、各地の法務局の窓口等で、だれでも簡単に取得することができます。また、登記申請が行われた際の添付書類についても、当事者やその利害関係人は、利害関係を有する部分について、閲覧請求をすることができます。
この登記制度の公示性は、不動産取引の安全を担保する重要な要素です。

しかしながら、ドメスティック・バイオレンス(DV)や、ストーカー行為、児童虐待等の被害者は、現住所を加害者に知られてしまうことで、重大な事件が引き起こされてしまう可能性があり、被害者の保護のため、その住所が秘匿される必要があります。そのため、平成24年に戸籍法においては住民票や戸籍の附票等の閲覧・交付制限の制度が設けられ、不動産登記制度においても、DV等の被害者が登記の当事者になる場合について、対策が講じられるようになりました。

以下、まずは被害者が所有権移転登記の義務者になるケースを簡単にご説明します。
(例)DVにより離婚した夫婦が、持ち家を売却する場合など

売買等の所有権移転登記の前提として、登記簿上の住所と現住所が異なる場合は、まず住所の変更登記を行ったうえで、所有権移転登記をする必要があります。
ただし、上記のような場合においては、被害者の現住所が加害者に知られる(登記簿に現住所が登記される)と、更なる暴力被害を受けることが想定されるため、特例的に住所の変更登記を省略し所有権移転登記を認めるとする先例(平成25年12月12日付民二第809号通知)が出されました。

この先例では、所有権移転登記に際し、以下を提出すべきものとされています。
・登記義務者の住所変更を証する情報(住民票等)
・いわゆる「DV防止法」で支援を受けていることを証明する情報

また、本先例には加えて以下のような記述もあります。
・いわゆる事前通知(権利証を紛失している際の本人確認の制度)は、登記義務者の現在の住所に宛てて通知する
・登記完了証に記載される住所は、登記簿上の住所を記載する(現住所が記載されない)
・登記申請書および添付書類には、閲覧制限がかけられる

次回は、被害者が所有権移転登記の権利者になるケースの紹介をします。

(参考)

平成25年12月12日付民二第809号通知
登記研究808号102頁(平成27年)
登記研究818号9頁(平成28年)