こんにちは、いわさき司法書士事務所です。
先日、「源氏物語」全4巻を大人買いしました。
第1巻の表紙は、グスタフ・クリムトの「接吻」。
なぜクリムト?順を追って説明します。

源氏物語 A・ウェイリー版1
紫式部
左右社
2017-12-22



源氏物語には、谷崎潤一郎訳、与謝野晶子訳、田辺聖子訳など、これまでにたくさんの名訳がありますが、このところ角田光代訳が完結したり、光源氏が現代にタイムスリップしてくるというドラマが放映されるなど、なんだか新しい盛り上がりを見せています。昨年は「若紫」の定家本が発見されるという、大きな事件もありました。

紫式部作「源氏物語」は平安中期に成立した作品ですが、第一次世界大戦後のイギリスで、英国人アーサー・ウェイリーによって英訳されているのをご存知でしょうか。ウェイリーは日本語を独学で習得(!)したそうですが、その格調高くうつくしい訳文によって、レディ・ムラサキ著、ウェイリー訳の"The Tale of Genji"(1921-1933)は大ベストセラーとなり、欧米各国で日本文学ブームを巻き起こします。ウェイリー訳の源氏は、さまざまな言語による翻訳の底本になり、ヴァージニア・ウルフやレヴィ=ストロースなどの文化人を筆頭に、現在にいたるまで世界中の人びとに愛読されてきました(そんなひとり、ニューヨークのとある古本屋でウェイリーの源氏を手に取った米国人大学生は、のちに偉大な日本文学者になります。1940年、ヒトラーがヨーロッパの侵攻をはじめた暗黒の年、ドナルド・キーン18歳の転機でした)。

さて、このウェイリー版「源氏物語」が、このたび新訳で再翻訳され、左右社から全4巻で刊行されたのですが、この「源氏」とにかくべらぼうに面白いのです。英訳→和訳という、いっけん無駄なプロセスを経たことで、かえって描写の普遍性が際立っており、いわゆる学校教育の"古典"という軛から解き放たれて、物語がより小説的に面白くなっているといえます。いっぽう、ウェイリーという異邦人の目から平安朝を眺めることによって、無国籍感というか、時代も地域もよくわからない、幻想小説のような面白さも生まれています。シャイニング・プリンスことわれらがゲンジは、フルートのデュエットを楽しみ、マラリアにかかって床に伏し、ラブ・アフェアに心を惑わすのです。
古典の授業がつまらなかった、と苦手意識がある方こそ、このウェイリー版を読まれると、源氏ってじつはおもしろいじゃん、と再発見されるかもしれません。

興味がある方は、左右社のホームページから、第一帖「キリツボ(桐壺)」の試し読みができますので、ぜひご覧になってみてください。ウェイリーの訳、そして毬矢まりえ・森山恵両氏によるたくみな再翻訳によって、まさにウェイリーが、そして世界が(おそらく驚きとともに)出逢った"アメイジング・テイル・オブ・ゲンジ"に、われわれも出逢いなおすことができます。