紀元前44年3月15日、ユリウス・カエサル暗殺さるる。
遺言書により第一相続人として指定されたのは、ガイウス・オクタウィウス・トゥリヌス。姪アティアの息子で、若干18歳―—


アウグストゥス
ウィリアムズ,ジョン
作品社
2020-09-02


ジョン・ウィリアムズの三作目にして、遺作。
たいへん面白く読みました。

パクス・ロマーナ(ローマの平和)を成し遂げたオクタウィウス(アウグストゥス帝)の、透徹した孤独。
私たちがローマ史で知るアウグストゥスは、オクタウィアヌス、“かつてオクタウィウスであった者”。ジョン・ウィリアムズは作中、彼を一貫してオクタウィウスと呼び、ローマの初代皇帝アウグストゥスを、“尊厳者”としてではなく、徹底して個人として描こうとしたことを感じさせます。

第一部は青年オクタウィウスが、アグリッパやマエケナスらと短い青春時代を過ごし、ブルトゥスやキケロらと対立し、クレオパトラとアントニウスを倒すまで。第二部では一転、恵まれない結婚をし、恵まれない結婚を強い、友人を次々と失い、娘を流刑にし、偉大な皇帝として孤独に死ぬまでのアウグストゥスが描かれます。

ごく短い第三部を除き、アウグストゥス自らが語り手になることはなく、全篇が敵味方あらゆる人物の手紙や手記、報告書などから構成される、端正な書簡体小説です。語り手は常に個人の主観や政治的意図のもとに文章を書き、ときには平気で嘘も記すわけで「藪の中」のような面白さも。しかしながら、その無数の不確かな断片に、オクタウィウスの苦悩する孤独な魂がかえって鮮やかに浮かびあがってくるのです。

もうこの作者の新しい作品を読むことはないと思うと、たいへん寂しい思い。


ジョン・ウィリアムズといえば。
容赦のない緻密な心理描写、このうえなく美しい比喩と文章。人生のマイ・ベスト・テンに入る完璧な小説です。不世出の翻訳家東江一紀の遺作でもあります。

ストーナー
ジョン・ウィリアムズ
作品社
2014-09-28


ローマ史といえば。

ハドリアヌス帝の回想
マルグリット・ユルスナール
白水社
2008-12-16