ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』(Le Bal du comte d'Orgel, de Raymond Radiguet, 1924) を読みました。
渋谷豊氏の新訳です。


ドルジェル伯の舞踏会 (光文社古典新訳文庫)
ラディゲ,レーモン
光文社
2019-04-09





社交会の花形ドルジェル伯とその貞淑で無垢な妻マオ、青年貴族フランソワの三者の関係を描く、フランス心理小説の白眉。クラシカルな恋愛小説の形をとりつつ、ラディゲの興味は”純数な魂が無意識のうちに弄する姦計"にあります。

とにかくスリリングでエレガント。あまりにも隙のない完璧な文章に、まじか、と呆然とします。二十歳の遺作。

"ロマネスクであると同時に、正確無比の論理"と評されたとおり、恋愛小説でありながら、その心理描写は冷徹なほどに緻密です。これが二十歳(なんと執筆をはじめたときは18歳)の筆かと思うと、凡人はその才に恐れおののくほかありません。

訳者あとがきでも引かれていましたが、小林秀雄の評がたいへん面白く、100%同意しかない感想でしたので(さすが小林秀雄)、少し長いですが最後にご紹介します。

(…)思いもかけず俺はガアンとやられて了った。電気ブランか女でないと容易に動きださない俺の脳細胞は、のたのたと読み始めるや、忽ちバッハの半音階の様に均質な彼の文体の索道に乗せられて、焼刃のにおいの裡に、たわいもなく漂って了った。(…)俺は彼の舞踏会を出て、凡そ近代小説がどれもこれも物欲しそうな野暮てんに見えた。これ程的確な颯爽とした造形美をもった長編小説(ロマン)を近頃嘗て見ない。それにしても子供の癖に何んという取り澄し方だろう。やっぱり天才というものはあるものだ、世に色男がある様に。
(小林秀雄『からくり』(『Xへの手紙・私小説論』新潮文庫)より)
 
私もガアンとやられてしまいました。
とにかく面白い小説ですので、ぜひ。


ラディゲ18歳のデビュー作。こちらも新訳が出ています。
肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)
ラディゲ
光文社
2013-12-20



ラディゲが影響を受けた、フランス心理小説の名作。
ラ=ファイエット夫人『クレーヴの奥方』
クレーヴの奥方 (古典新訳文庫)
ラファイエット夫人
光文社
2016-04-12



幸福の定義は"19歳で『ドルジェル伯』を書いて、二十歳で特攻隊で死ぬこと"と語ったという、三島由紀夫によるオマージュ。『ラディゲの死』
ラディゲの死 (新潮文庫)
由紀夫, 三島
新潮社
2006-01T